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キングダムオブカオスが分からない方は見ないほうがよろしいかと。
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「かーさん」
少年。
「なぁに?」
少年の母。
「とーさん」
少年。
「なんだ?」
少年の父。
幼い少年は、引きずるように着込んだ赤い袴姿。
その少年の手は、頼りなく、父母の指を握り締めて。
悪戯に体ゆれてみたり、重をかけてみたり。
「僕ね、いつか、にーさん達や、とーさんにも負けない、強いやつになるんだ!」
「ほう。でも、いつも泣いてばかりじゃぁなぁ?」
「あら、この子も貴方の子供。きっと、強い男になりましょう」
しゃがみこむ母は、道端の花に一つ、こほんと咳を。
少年は、その母の背に乗っかりながら、邪気なく笑う。
「そうか。それじゃぁ明日からは、もっと厳しい稽古にしなければな?」
少年の父は、少ししょんぼりとした顔に微笑み、空を見上げる。
雲のある青い空を、まぶしげに。
少年も、同じように空を見上げる。
高い、途方もなく高い青を。



「ちくしょう」


空を見上げていた男は、嫌悪と罪悪にうなった。
男は過ぎ去っていく時を思う。
そうやって、ただ過していた。
そして、その日々のことをまた、思う。
だが、彼は気づかない。
時は過ぎ去らない。
時は動かない。
時は移ろわない。
動くのは時ではなく、時はその場ですべてを包み込むもの。
過ぎ去っていくのは、現実なのだ。




「ちくしょう」
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今日も今日とて格好つけ
伊達と酔狂どこへやら
ただただ笑って格好ツケ
あーらら楽しいやら
あーらら可笑しいやら

というわけでダン・クエール氏を最大限にリスペクトしてみてぇと思う。
分からない人には本当に分からない。

「普遍的な、途切れ途切れの人生」
「と、いうわけで、我々は、こう言葉を発している時点で、山あり谷ありです」
「笑って、食って、寝て……はて、あとは何をすべきことがある」
「他人を見つめ、己が手を見つめ、この手が誰のだったかを忘れていく」
「あまりに受動的過ぎて、時折自身を忘れるときがある」

「あのとき喰らった悲しみが、口の中で酸っぱく匂う」

しっくりはこねぇな。

『寒風や稲穂をなでる茜空果てから響める童の歌声』

『雲間から日暮れの雫を望みつつ我もとぞ思う鳥の羽ばたき』
 冬の昼間の陽射というのは、非常に心地が良く、ついついうとうとしてしまう。
 こと、街行く人々の服の厚みが増え始めてきた近頃では、余計に、だ。
「暖かな日向の表をひた歩き影にまわりて冬と知るらむ……てな感じか」
 遠い道を行く旅装束姿に気まぐれに手を振りながら、激は寒くても尚、青さを失わない草の絨毯に思い切り体をくつろげる。
 風も無く、冬の足音が聞こえる寒気も、陽射に照らされてその足を緩める日。
 いつもの農作業を終え、これまたいつもの如く己の畑を見ながら、酒を煽っていた。
「……いいねぇ」
 寒さが身に染みるようになっていく中、畑に撒かれた種は、芽を出し、土を割るように育ち、実を付けていく。
 水をやり、雑草を抜き、間引き、土を見……丹精込めて、愛情を注げば注ぐほどに、植物は応えてくれる。
 等間隔に並んで、同じような見てくれながらも、個体差がはっきりと見て取れる植物達は、彼にとって神秘であり、心の深いところの拠り所でもあった。
 そうして、日に日に大きくなっていく農作物は、今のところ彼の最も楽しみなことの一つであり、また、それを見ながらの酒は格別だった。
 さらに言うなら、これに甘く焼いた煎餅を食み、煙草を呑む……人が見れば悪手と嘲りそうなそれが、堪らなく、彼を上機嫌にさせる。
「ふふ……この無骨な手が、こんなものを作れるんだからなぁ」
 包みから煎餅を摘む手を、どこか遠くの知らない何かを見るような目で見ながら、しかし顔を綻ばせ、ひょいと煎餅を口へ放り投げる。
 煎餅特有の、どこか暖かさを感じさせる硬質な咀嚼音に合わせるよう、そっと寒気を注ぎいれるような風に、実りの兆しを見せ始める作物が揺れている。
 収穫も、そう遠くは無さそうだ。
「……おや」
 その、我が子とも言える作物の向こう、あぜ道を歩く年端もいかぬ子供の姿。
 恐らく兄弟ではあろうが、近所の子供であろうか。ただ、激には見覚えが無いところから、何処か遠方から遊びに来ているのかもしれない。
「あにさまー、はだかのひとがにやにやしてるー」
「しっ、見てはいけないよ!」
 突然、妹の方が激の方を無邪気に指差し、兄の方が激の視線から妹を庇うようにしながら、嗜める。
 農作業の為、諸肌脱ぎに裾をはしょった姿は、子供に見せるには些か問題があったようだ。
(見られても恥ずかしく無ぇ体だと思うんだがな……)
 などと、見当違いなことで首をかしげながら、妹の手を引き慌てて走り去る兄と、手を引かれ、頭をこくこくと揺らしながらもこちらを見つめる妹を眺めていると。
 何かが……いや、何かというにははっきりとしているが、さりとて記憶というには曖昧なものが、さっと、心を通り過ぎていく。
「俺は、あんな出来た兄貴じゃぁなかったな」
 兄の背中を見つめながら、手を引かれるがままになっている女の子の姿を、えもいわれぬ顔で、しみじみと目で追い続ける。
「くだらねぇ、出来損ないだった」
 述懐。
 悔やむでもなく、ただの思い出を一人ごちる。
 目を細め、眩しげに兄妹を見つめる激の姿は、若さを偲ぶ老人に似ていて、しかし様々な感情が入り混じった、心の濁流とも言うべきものを瞳に湛えている。
 胸の中を締め付けるような思い出が、彼の中で柔らかな鞠のように弾み、暴れているかのようだった。
「……うつそみの人は生きさへ誉けれ揺るぐ実りの喜びの如く……いや、何かよくわからねぇなこれは」
 ふと、湧き上がる感情のままの言葉を口にしてから、小さく苦笑いをして、息をついた。
 遠く、己の中で手を振る彼らは、会いに行こうと思えばできないこともなが。
 しかし、昔のままの、激の……三郎の知っている姿ではない。
 灰世にたゆたう意識の集合体、彼らの一族が一つとなった「海」の姿なのだ。
 当然、呼びかけに応じる事も無く……。
「ん……寒くなってきたな」
 そっと己を抱きすくめるようにして流れている冷たい空気に、ほんのりと色づき始めた空を見上げながら、最後に酒を一杯ぐいと煽る。
「帰ぇるか」
 すっくと立ち上がってから、尻をはらい、そして先ほどの兄妹とは反対へ歩み行く。
 煎餅と、煙草盆と、酒と、農具……色んなものを持って、帰途に着く。
 彼の背後から響く兄妹の無邪気な声を……『妹』の声を聞きながら。
「もう、冬よな」
 そういいながら、寒気に一つ身震いをする。
 徐々に、鮮やかな色合いを見せる空模様は、澄んだ空気をあまねく照らしはじめ、紅葉色に染め上げていく。
 そうして、見る人の心に郷愁をもたらす様が、優しく、冬の訪れを知らせていた。
                                                               -了ー
名前について
激、という名前については後に『天狗』により付けられたもので、諱は衛斗(もります)。正式に書くと鬼神三郎衛斗(おにがみさぶろうもります)となる。
「衛」という字は、鬼神家の通字。二人の兄も、「衛」を諱の一部に頂いている。

このことから、彼の一族の家柄はどうやら正当な系譜のものであったようだが、これらが公に認められていたという証拠が無いため、検討の余地を大きく残している。

『波の音の一つともせず夜の海の遠き果てにて燃ゆるともしび』


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