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キングダムオブカオスが分からない方は見ないほうがよろしいかと。
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 冬の昼間の陽射というのは、非常に心地が良く、ついついうとうとしてしまう。
 こと、街行く人々の服の厚みが増え始めてきた近頃では、余計に、だ。
「暖かな日向の表をひた歩き影にまわりて冬と知るらむ……てな感じか」
 遠い道を行く旅装束姿に気まぐれに手を振りながら、激は寒くても尚、青さを失わない草の絨毯に思い切り体をくつろげる。
 風も無く、冬の足音が聞こえる寒気も、陽射に照らされてその足を緩める日。
 いつもの農作業を終え、これまたいつもの如く己の畑を見ながら、酒を煽っていた。
「……いいねぇ」
 寒さが身に染みるようになっていく中、畑に撒かれた種は、芽を出し、土を割るように育ち、実を付けていく。
 水をやり、雑草を抜き、間引き、土を見……丹精込めて、愛情を注げば注ぐほどに、植物は応えてくれる。
 等間隔に並んで、同じような見てくれながらも、個体差がはっきりと見て取れる植物達は、彼にとって神秘であり、心の深いところの拠り所でもあった。
 そうして、日に日に大きくなっていく農作物は、今のところ彼の最も楽しみなことの一つであり、また、それを見ながらの酒は格別だった。
 さらに言うなら、これに甘く焼いた煎餅を食み、煙草を呑む……人が見れば悪手と嘲りそうなそれが、堪らなく、彼を上機嫌にさせる。
「ふふ……この無骨な手が、こんなものを作れるんだからなぁ」
 包みから煎餅を摘む手を、どこか遠くの知らない何かを見るような目で見ながら、しかし顔を綻ばせ、ひょいと煎餅を口へ放り投げる。
 煎餅特有の、どこか暖かさを感じさせる硬質な咀嚼音に合わせるよう、そっと寒気を注ぎいれるような風に、実りの兆しを見せ始める作物が揺れている。
 収穫も、そう遠くは無さそうだ。
「……おや」
 その、我が子とも言える作物の向こう、あぜ道を歩く年端もいかぬ子供の姿。
 恐らく兄弟ではあろうが、近所の子供であろうか。ただ、激には見覚えが無いところから、何処か遠方から遊びに来ているのかもしれない。
「あにさまー、はだかのひとがにやにやしてるー」
「しっ、見てはいけないよ!」
 突然、妹の方が激の方を無邪気に指差し、兄の方が激の視線から妹を庇うようにしながら、嗜める。
 農作業の為、諸肌脱ぎに裾をはしょった姿は、子供に見せるには些か問題があったようだ。
(見られても恥ずかしく無ぇ体だと思うんだがな……)
 などと、見当違いなことで首をかしげながら、妹の手を引き慌てて走り去る兄と、手を引かれ、頭をこくこくと揺らしながらもこちらを見つめる妹を眺めていると。
 何かが……いや、何かというにははっきりとしているが、さりとて記憶というには曖昧なものが、さっと、心を通り過ぎていく。
「俺は、あんな出来た兄貴じゃぁなかったな」
 兄の背中を見つめながら、手を引かれるがままになっている女の子の姿を、えもいわれぬ顔で、しみじみと目で追い続ける。
「くだらねぇ、出来損ないだった」
 述懐。
 悔やむでもなく、ただの思い出を一人ごちる。
 目を細め、眩しげに兄妹を見つめる激の姿は、若さを偲ぶ老人に似ていて、しかし様々な感情が入り混じった、心の濁流とも言うべきものを瞳に湛えている。
 胸の中を締め付けるような思い出が、彼の中で柔らかな鞠のように弾み、暴れているかのようだった。
「……うつそみの人は生きさへ誉けれ揺るぐ実りの喜びの如く……いや、何かよくわからねぇなこれは」
 ふと、湧き上がる感情のままの言葉を口にしてから、小さく苦笑いをして、息をついた。
 遠く、己の中で手を振る彼らは、会いに行こうと思えばできないこともなが。
 しかし、昔のままの、激の……三郎の知っている姿ではない。
 灰世にたゆたう意識の集合体、彼らの一族が一つとなった「海」の姿なのだ。
 当然、呼びかけに応じる事も無く……。
「ん……寒くなってきたな」
 そっと己を抱きすくめるようにして流れている冷たい空気に、ほんのりと色づき始めた空を見上げながら、最後に酒を一杯ぐいと煽る。
「帰ぇるか」
 すっくと立ち上がってから、尻をはらい、そして先ほどの兄妹とは反対へ歩み行く。
 煎餅と、煙草盆と、酒と、農具……色んなものを持って、帰途に着く。
 彼の背後から響く兄妹の無邪気な声を……『妹』の声を聞きながら。
「もう、冬よな」
 そういいながら、寒気に一つ身震いをする。
 徐々に、鮮やかな色合いを見せる空模様は、澄んだ空気をあまねく照らしはじめ、紅葉色に染め上げていく。
 そうして、見る人の心に郷愁をもたらす様が、優しく、冬の訪れを知らせていた。
                                                               -了ー
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